大木あまり「シリーズ自句自解1 ベスト100」P100

 せんべいの瘤のさびしき日永かな


 写真家で俳人である福島晶子の海の見える家で、海を独占しているような気分で二人句会をやった。席題は「春の波」と「椿」。だが、話ばかりして句会が進まない。茶請けのおせんべいに瘤のようなふくらみを見つけた晶子が「エロティックね」と笑った。私は瘤が二つあるから淋しいのだし、またおせんべいの匂いこそ日長にふさわしいと思った。春ののどかさを実感しつつ句会を終えたときには、海の色が変わっていた。 (『雲の塔』)