大木あまり「シリーズ自句自解1 ベスト100」P110

 蝉よりも生き長らへて蝉の殻


 あなたが、君の好きな草の実をあげるといって蝉の殻をプレゼントしてくれたあの夏の日から何十回もの夏がめぐってきました。
 最近、あなたと草原で風の音を聴きながらミルクティーを飲んでいる夢を見ました。夢の中の風景はすべて蝉殻色をしていて、あなたは亡くなったときのままで、その若さがまばゆいほどでした。あまりにも短い夢でしたが、この夢を見るために私は生きてきたのかもしれません。 (『火球』)