大木あまり「シリーズ自句自解1 ベスト100」P120

 雨やみしのちのかなかなしぐれかな


 山西雅子さんと鎌倉の杉本寺に吟行したことがあった。境内の木陰で、周りの風景を眺めながら作句に集中する雅子さん。私は小動物のようにせわしなく歩き回った。歩きながら、対照的な二人の友情が長続きしているのは聡明で辛抱強い彼女のお蔭と感謝した。そのとき突然、仄暗い杉木立の奥でかなかなが鳴いた。もの哀しくも涼やかな声で! 二人でかなかな時雨を心ゆくまで聞いた。その日、雅子さんとの思い出がまた一つ増えた。 (『火球』)