大木あまり「シリーズ自句自解1 ベスト100」P124

 祇王寺水仙売の消えにけり


 嵯峨野が好きで、四季折々の嵯峨野の景色を楽しみながら、〈落柿舎や頭めぐらす雀の子〉〈野宮や春の落葉の氷りたる〉など他にも沢山の句を作った。この祇王寺を訪れたとき偶然、水仙売に出会ったときのもの。野水仙の束を抱えた水仙売の若い女性は、春の使者のように野水仙の芳香を残して寺の中へ入って行った。しばし平清盛をめぐる祇王、妓女、仏御前の哀しい物語に思いをめぐらせた。「消えにけり」で余情をだしたかった。 (『火球』)