大木あまり「シリーズ自句自解1 ベスト100」P134

 涅槃図に加へてみたきあめふらし


 城ヶ島の磯で、打ちあげられた雨降らしを初めて見たとき衝撃を受けた。暗紫色の形と感触が牛のレバーに似ている珍しい生きもの。巻貝の仲間とは思えなかったが妙に親近感を抱いた。自分では海に帰ることもできない海降らしをどうしても詠みたい。岩に坐って思いをめぐらしていると、閃いた。そうだ、涅槃に入る寝釈迦を囲んで嘆き悲しむ弟子や菩薩や禽獣虫魚を描いた涅槃図に加えたら面白い。思い付きでこの句はできた。 (『火球』)