大木あまり「シリーズ自句自解1 ベスト100」P136

 悲しみの牛車のごとく来たる春


 寒い冬から解放される春。木々が芽吹き生きものの総てが勢いを取りもどす春なのに、ある事で悲しみから立ち上がれずにいた。
 そんなとき、俳人の木村定生さんが「だらーんとしてればいいんですよ」と言ってくれた。そう、牛車のように重くて深い悲しみから立ち上がるには、水餅のように悲しみに沈んでいれば良いのだ。そのうちそれに疲れて浮かんでくるにちがいない。木村さんは人を元気にさせる達人である。それ以来、悲しい事があると「だらーん」としている。 (『火球』)