大木あまり「シリーズ自句自解1 ベスト100」P170

 殻ごもるでで虫を手に法隆寺


 奈良に着くとすぐに飛鳥寺、般若寺、唐招提寺を拝観してから法隆寺に立ち寄った。山門に入ると、いきなり男の子が「真珠みたいでしょ、あげるよ」と言いながら私の手に小さな蝸牛を乗せてくれた。殻にこもった主は触覚や顔さえ見せてくれない。仕方なく蝸牛を手に乗せて夢殿へ足を運んだ。梅雨時の湿った風の吹く夢殿。至福のひとときだった。「良い夢を見なさい」と蝸牛を救世観音に預けて夢殿を後にした。 (『星涼』)