大木あまり「シリーズ自句自解1 ベスト100」P178

 白地着て岬で待てと夢の父


 父不在の変則的な家庭でも母を中心に兄や姉たちとの生活は楽しく快適だった。思春期になって父を必要としたことはあったが、父と暮らしたいとは言えなかった。複雑な父への思いを卒業したのは大学生の頃だった。それ以来、物分りの良い娘になろうと努めた。
 白地を着た夢の中の父は、優しく手を差し伸べた。お父さん、約束の岬までは行けませんが、わたし、やっと、俳句という岸に辿り着けましたよ……。 (『清涼』)