大木あまり「シリーズ自句自解1 ベスト100」P184

 濁流の音ここちよく節分草


 隅田川へ向かって荒川の川沿いを歩いているときのこと。前日の大雨で川の水が濁っていた。流れる水の音を聞き留めようと目を瞠ると、清流のような気持よい音がする。意外だった。そこへ白い小さな五弁の花の咲く鉢を提げた婦人が現れた。「それ、なんの花ですか?」と聞くと「節分草。可憐でしょ」と答えた。「荒川の本流って濁るときもあるんですか?」。婦人は「荒川はいつだって荒川ですよ」と笑った。風雅の心を知っていると思った。 (『清涼』)