綴じ込みページ 猫-29

 わが畏友、いて丁先生が、のちに俳号のもととなったその句を披露したのは、第1回そろり会がひらかれた2008年2月21日の夜のことである。まだ、そのときは、だれも俳号をつけていなかった(だから、句のあとに作者名を入れるのは、もちろん後付けである)。


   凍蝶の肩に止まりてうごかざる いて丁


 柚さんと不肖飛行船がこの句を採っている。あまり先生は採っておられない。
 講評の段になって、あまり先生、この句を評して曰く、
「凍蝶がうごかないのは、当たり前でしょ。当たり前のことを、さも上手そうに詠んだ句よね。当たり前のことを当たり前に詠んじゃダメなの、俳句は」
 初日にしては手厳しい批評に、さすがのいて丁先生も赤面してタジタジとした。いや、これは、なんとかかんとか、と、だれにいうともなく、口のなかでしきりにモゴモゴ弁解していたが、最後に、はい、わかりました、と素直に応じた。
 それはそれで終わったのだが、そのあと、いて丁先生が口をひらくたびに(もっともらしいことをいうたびに)、なによ、あんたなんかイテチョウのくせに、とわさびさんが混ぜっ返した。みんなが爆笑した。いて丁先生は、そのたびにカクンと肩を落として、それはないでしょ、という目で弱々しく笑うのだった。
 この夜、ぼくは、青春がよみがえったような気がした。こんな面白いことがまだあったのか、とおもった。久しく忘れていた高揚感と、それから充足感を、じっくりと味わっていた。それは、参加された皆さんも同じだったろうとおもう。


   熱燗にふれてつまみし猫の耳 飛行船