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    吾が妻という橋渡る五月かな 貨物船


 貨物船というのは、詩人の故・辻征夫の俳号。「俳諧辻詩集」所収の「吾妻橋」という題名の詩の冒頭にこの句があげられている。


    枕橋を過ぎ 長命寺の裏を通って
    昭和二十三年三月十日にも焼けなかった
    路地の迷路に 男は消える)


 十七行の詩は、この三行で終わる。
 昭和二十年三月十日というのは、アメリカ軍による東京大空襲の日である。ぼくの母の、あの下町に住んでいた友人が、川に逃げて、被災したのはこの日かもしれない。


 聞いてびっくり、ということがときどきあるが、わさびさんに教えられてびっくりした事柄を忘れていた。詩人の辻征夫は、画家の羽倉恭子先生の従兄妹なのだそうである。