綴じ込みページ 猫-212

「忘れられた詩人の伝記」(宮田毬栄・中央公論新社)の137ページに、「橇の鈴さえ 寂しく響く」とはじまる詩が載っている。東海林太郎が歌った「国境の町」の出だしといえば、たいていの(同世代の)人が知っているだろう。「雪の荒野よ 町の灯よ」とつづく。しかし、この詩を書いたのが大木惇夫だとは知らなかった(もっとも、ぼくはどの流行歌でも、作者の名前はほとんど知らないけれど)。


 ページをめくると、詩は「一つ山越しや 他国の星が」とつづいている。はじめは「ロシアの」であったのを、レコード会社が時局を考慮して大木に頼み込み、「他国の」に落着したという経緯を、著者の編集者時代にほかの編集者を通じて、作家の五木寛之から教えてもらった、と書かれている。


 なるほど、ぼくは、この歌に出てくる国境(くにざかい)を外国とは考えなかったが、「ロシアの星が」といわれれば、寒気と寂寥の荒野がはっきりと眼に浮かんでくる。あとにつづく「凍りつくよな 国境」が、もっとも、とうなずけるというものである。


「国境の町」は4番まである。句会のお仲間のお軽さんなら、4番まですらすらと歌えそうである。
鉄道唱歌」は全「374番」まであるそうで、お軽さんはもしかすると全部歌えるかもしれないから(ちょっと歌いかけたことがあった)、これは恐怖であろう。
「国境の町」が4番まででよかった。