2011-01-01から1年間の記事一覧

銀座百点 号外64

昭和二一年(一九四六)「都内柿ノ木坂に下宿して、大学に通った。『葦』は、翌二二年に第三号を出して終刊となったが、『世代』『新思潮』(第十五次)同人となった。窮乏して、家庭教師や、女学校の講師、雑誌社のアルバイトなどやった。翌二二年秋、大学…

銀座百点 号外63

吉行淳之介の「年譜」である。筑摩書房版「新鋭文学叢書5 吉行淳之介集」による。 安岡正太郎の年譜と見比べるとおもしろいかもしれない。 大正一三年(一九二四)「四月一三日、岡山市に生れた。三歳のとき、父母とともに東京市に移住した。戸籍には、四月…

銀座百点 号外62

「年譜」に記載はないが、安岡章太郎は戦後、慶応義塾大学に復学し、1948年(昭和23年)に文学部英文学科を28歳で卒業している。ちょうど、脊椎カリエスで寝たり起きたりしていた時期で、肉体的・精神的苦痛はちょっと口ではいいあらわせないほどだったろう…

銀座百点 号外61

1953年(昭和二十八年)、「三月、二年間嘱託をしていたレナウン商事の仕事をやめ、創作に専念する。四月、「新潮」新人特集号に「陰気な愉しみ」、六月「群像」に「悪い仲間」を発表。七月、短篇「ハウスガード」で時事文学賞、「悪い仲間」、「陰気な愉し…

銀座百点 号外60

1945年(昭和二十年)、「三月、内地送還になり、七月に金沢の陸軍病院で現役免除となる。 十月、藤沢市鵠沼に住みはじめる。脊椎カリエスにかかったが、医療費など全然ないので医者にもかからず、寝たり起きたりで、進駐軍の労務者になったりした。」 1946…

銀座百点 号外59

1941年(昭和十六年)「四月、慶応大学文学部予科入学。浪人時代の延長で、第一学期はほとんど登校せず。江戸趣味探求と称して築地小田原町に下宿。そこから毎日、西銀座電通前のコーヒー店「娯廊」へかよう。しかし、さすがにそんなことが嫌になり、古山、…

銀座百点 号外58

1936年(昭和十一年)、「一月、代田二丁目の家へかえされる。前年の秋、お寺で肋膜炎まがいの病気をしたためである。このころから映画館がよいに熱中、教科書は学校のロッカーへ入れたまま、カバンには三四種の映画雑誌をつめこんで、級友にはもっぱら映画…

銀座百点 号外57

安岡章太郎は、年譜(筑摩書房刊新鋭文学叢書「年譜」)によると、1920年(大正九年)に高知市帯屋町の病院で生まれている。父親は、陸軍の獣医だった。 「生後間もなく、父親の勤務地である千葉県国府台か小岩かへ移される。以後、善通寺、市川、小岩等を転…

銀座百点 号外56

さがしものは、まだ見つからない。 ぼくが怠ることを覚えたのは、やはり高校を卒業して浪人生活を送るようになってからのことだ。 いまはなくなってしまったが、市ヶ谷に城北予備校という予備校があった。お堀のそばの左内坂を登りきった、通りの右側にあっ…

銀座百点 号外55

最近は、さがしものがスムースに見つからない。それよりもなによりも、探したいとおもっている事柄が至極あやふやである。落語に、「私のさがしてるものは、なんでしょう?」というオチがあったようにおもうが、これも曖昧なのだから困る。 矢村海彦君に与太…

銀座百点 号外54

ぼくは、心臓が口から飛びだすくらい驚いた。まさか矢村君の口からそんな言葉が発せられるとはおもってもみなかったからだ。 あとで、田村隆一先生がぼくのことをまじめだといったとき、矢村君の口からは、彼は与太者みたいな暮らしっぷりをしてます、とでか…

銀座百点 号外53

ぼくは、昭和52年1月に商船三井のアルバイトをやめてから、7月中旬にフジヤ・マツムラに就職するまでのあいだ、ただひたすらフラフラしていた(おもえば、大学受験に失敗して浪人生活に入ったときから、ずっとフラフラしっぱなしだ)。 それは田村隆一先生の…

銀座百点 号外52

商船三井のアルバイトを1月でやめても、ぼくはまだ学生だった。それどころか、その年の7月に銀座の洋品店フジヤ・マツムラに就職したあとも籍だけは大学に残してあり、どうやらまだアルバイト気分が抜けないでいたらしく、いやなら学生にもどるつもりだった…

銀座百点 号外51

山口瞳先生の「続・大日本酒乱乃会」にもどる。これを収めた「江分利満氏の華麗な生活」の初版は、昭和38年に発行されている。東京オリンピックの前年である。あの敗戦国日本も、見違えるほどの復興をとげており、やや余裕をもって戦後の混乱期をふり返るこ…

銀座百点 号外50

田村隆一詩集「新年の手紙」は、朝日新聞の夕刊で丸谷才一が田村の詩を時評に上らせた2カ月後の昭和48年3月30日、池田満寿夫の装幀で青土社から刊行された。だから、きっと、この詩集はすぐに評判になったにちがいない。2年後に、ぼくが「雁のたより」を読ん…

銀座百点 号外49

しかし、ぼくが田村隆一の詩にふれるのは、もっとずっとあとのことだ。 丸谷才一が1973年1月25日、朝日新聞夕刊の文芸時評で田村隆一をとりあげる。ぼくは、これを読んでいない。うちは読売新聞をとっていたからだ。 1975年4月、丸谷さんが連載した文芸時評…

銀座百点 号外48

「もう一軒行きましょう。すぐそこだから」 もう一軒のバーへ行くまでに寿司屋へ寄る。トロを少したべて、 「ぼく田村です。また来ます」 と言って寿司屋を出る。実に優しい。 Qという看板のあるバーの扉をあけて、首だけ入れて、 「ママさん、いる?」 マダ…

銀座百点 号外47

詩人田村隆一のことは、山口瞳先生の「江分利満氏の華麗な生活」(1963年・文藝春秋新社刊)ではじめて知った。1968年ころのことである。 「江分利満氏の華麗な生活」は、10篇の短編からなる連作小説である。小説だが、エッセイのような風味がある。その1篇…

銀座百点 号外46

「連作詩『5分前』はその当時の作品。」と、長谷川郁夫の「解説エッセイ」はつづく。 やっと部屋が 部屋らしくなった 窓には白いレースのカーテン 小さな庭には秋草の花 朝の光り 午後の夢 夜の沈黙 それから 眠ることが愉しくなった シェリーを一杯飲んで …

銀座百点 号外45

しかし、田村さんは、フジヤ・マツムラにはみえなかった。それどころか、数年後、稲村ヶ崎からも忽然と消えてしまったのだった。 田村さんのお宅に矢村君がうかがったとき、絵描きだという若い女性が玄関に現れて、矢村君が持参した九州のお酒をうやうやしく…

銀座百点 号外44

「田村隆一全集」の第6巻を購入。これでめでたく全巻揃ったことになる。 巻末の「解説エッセイ」は、長谷川郁夫。最近、いまどきの本はぜんぜん読まないから、この解説者も知らない人だ。いま、調べたら、「元小澤書店社長、文芸編集者、評論家、大阪芸術大…

銀座百点 号外43

きのうのつづき。大木あまり選飛行船句の残り。 暦だけの秋を彩る木槿かな 八月尽今宵も酒場放浪記 炎天をワシコフ黙して往きにけり 生活といふ劇場や秋出水 鹿鳴けば思ひ出よぎる奈良ホテル みちのくの早瀬にかかる紅葉かな なんとなく遠まはりする良夜かな…

銀座百点 号外42

そろり会は、ちょうど3年前に発足した。大木あまり先生にご指導いただけたのは、僥倖以外のなにものでもない。愚鈍な飛行船に、それが多少なりともわかってきたのは、いい加減日が経ってからのことだ。そのおもいは、日を増して強くなってきている。いい道具…

銀座百点 号外41

では、万作さん選飛行船句。 幼子の掌よりこぼるる雛あられ 春一番吹いて机上は砂漠かな 漆黒の闇匂ひ立つ沈丁花 睡蓮の夢見る如き寝顔かな 鉄塔に少年の夏輝けり 百日紅父の墓前の煙草かな 白犬の路地ふさぎをる暑さかな 夏祭り狐の面の笑みもらす すり減り…

銀座百点 号外40

鶉さんと万作さんは、実務家である。実務家でありながらロマンチシストである。そして、どちらも血が熱い。しかし、よく似ているようで、似ていない。似ていない証拠は、選句を見てみればわかる。 それでは、鶉さん選の飛行船句から見てみよう。 汗ばみし八…

銀座百点 号外39

わさびさんは感性の人だ、とぼくはいった。それも、独特の審美眼と倫理観に裏打ちされた感性だ。論理だの理屈だのといったヘッタクレは、いとも易々と飛び越えて、すんなりとご自分の結論に達してしまうから、ひとに理解されづらいのもむべなるかなである。 …

銀座百点 号外38

そろり会のお仲間の句を紹介していたら、お師匠さんの大木あまり先生がふらんす堂から上梓された句集「星涼」(註、2010-10-17「銀座百点 号外16」参照)で「第62回読売文学賞」(「詩歌俳句賞」)を受賞された。快挙である。 授賞式は2月21日、帝国ホテルに…

銀座百点 号外37

選句するということは、目の確かさを問われることだ。お仲間のだれもが、いえいえ私なんか、という顔をしながら、自分の感覚を強く信じている(「目のつけどころがちがうでしょ」)。それは、火を見るより明らかである。であるならば、不肖飛行船もおくれを…

銀座百点 号外36

鶉さん選のわさびさん句も見てみよう。 豆をまくまけどもまけども鬼は内 濁り酒五臓六腑に百八つ 年波の寄せては返す彼岸かな 友の嘘独活の苦さのほどなれど タンポポとヒポポタマスに天気雨 永遠は八十八夜の子守歌 落花竜巻となりてバスを待つ 以後一線引…

銀座百点 号外35

それでは、万作さん選のわさびさん句を見てみよう。 交差点恋や花粉やもやもやと 春雨や傘さす人と別れたり 無人駅夏草踏んで下り立ちぬ 本棚の埃払って秋近し 友の嘘独活の苦さのほどなれど 端居してももひざすねと暮れていく 紫陽花のパパは雨雲ママは虹 …